その夜。
「なんでも良いから、強いのくれる?」
裏口から入って来た空生が、カウンターに座った。
崇もまだ来ていなくて、葉月は人前に出れるような顔じゃない。
珍しく客も座っていない。
「今日、カノンちゃんに会ったよ、俺の店で」
俺はやんわりと笑みを浮かべながら、空生の反応を窺った。
「ーそう」
空生は興味無さそうな返事をする。
そうじゃねぇだろ。
お前言う事あんだろ。
なぁ、いい加減気付けよ。
「あの子、お前のこと、好きだよ」
俺との約束破ってるってことに。
「…なんで」
僅かに空生の視線が揺れたのを、俺は見逃さなかった。
「勘、かな」
お前だって気付いてるだろ。気付かないふりを、興味のないフリをしているだけで。
「…ふーん。それで?」
今までと違う感覚に、戸惑ってるなら、殺しちゃえよ。そんな感情。
「お前も、ちょっと入れ込み過ぎじゃない?」
必要ないんだ、お前には。
「実名も、教えてるしさ」
これは、忠告だよ。友人としての。
だって。
契約違反になり兼ねないんだよ?
「その仕事始める際の契約、忘れたわけじゃないだろ?」
ゆっくり、言い含めるように問えば、空生は。
「…当然だろ」
答えて、微かに笑った。
「…なら、いいけど。早いうちに手を切ることを勧めるよ。」
俺は一本のワインを手に取りつつ、あくまで平常通りにふるまったが。
「なんだよ、不機嫌だな」
空生は何も言わずに席を立ち、階段へと向かって行ってしまった。


