「燈真、氷ちょうだい。」
数分後、顔を抑えた崇が嬉しそうにカウンターに帰ってくるのを、思いっきり呆れた顔で迎えた。
「懲りない奴だね。」
「何に懲りなきゃいけないのか、俺にはわかんねぇ。」
不織布に包んだ氷を頬に当て、崇はキヒヒと笑う。
してやったり、と思っているのだろうが、それプラス、カノンとやらの反応がツボにハマったらしい。
「お前のせいで、零の仕事の予定が狂うだろうがよ。」
言いつつ、俺自身もこの状況を楽しんでいた。
よくあることだった。
「知ったこっちゃねぇよ。」
頬の腫れは直ぐにひいて、崇はやけに上機嫌に酒を呷り続け、やがて、ステージから空生が降りてこっちにやってくる時間になった。
僅かだが、空生がいつもに増して無表情になっている気がする。
そりゃそうだ。面白くはないだろう。
「今日来てた子、零に用事があったみたいよ?」
この間の女だとしっかり分かっている癖に、崇は敢えてそんな言い方をして、空生を煽るように笑う。
「なぁ…俺、あの子、気に入っちゃった。」
ーもう、要らないでしょ?俺に頂戴。
崇はそんなニュアンスを含めて、空生の為に酒を注いだグラスを勧めた。


