小さな引っ掛かりはそのまま。
まるで喉に小骨が刺さって取れなくなって、でもそこまで痛くはなくて、たまに思い出すと気になる。
その程度だったが、案外物事の方が勝手に動いてくれて。
翌週水曜日の夜。
「まぁ、ここでとりあえず飲み物でも頼みなよ。」
金を払ったことのない崇が、また性懲りもせず女を一人強引にカウンターに連れて来たと思ったら。
「あ、ありがと…」
呟かれた声に、聞き覚えがあって、顔を上げると。
「あれ?見覚えのある子だね?」
まさに俺の小骨が、目の前に座って俺を見上げていた。
見覚えのある、なんてもんじゃない。
本当はよく、覚えていた。
ただ、抱くこの感情が、良いか悪いかは自分でもよく把握していなかった。
「先日はっ、どうも…あっ、そういえば憲子っ」
素面らしいが、落ち着きがないのは前回と一緒。
カノンは勢いよく後ろを向く。
「友達なら…」
そんなカノンの視線を追うように、崇が指でつい、とホールを差した。
「思わず動きたくなっちゃったみたいよ?」


