私の彼、後ろの彼。



「璃子、おはよう」

教室に着いて椅子に座り、今日の時間割りを確認していたとき、後ろから声がした。

この声は新田真。

憎いくらいに優しい声だ。

私はイライラしていた。

新田真のことなんて一生無視してやる。

「璃子さーん」

背中をトントンと叩かれた。

絶対に振り返ってやるもんですか。

あんたのせいで私はやりたくもない副委員長とやらに押し付けられたんだ。

絶対に、口なんて聞いてやらない。

そう思っていたんどけど…。

「璃子。1限目は数Aだよ」

後ろからの声に私は反応し、手に持っていた教科書を見た。

私の手には現代文の教科書が握られていた。

「ふんっ」

私は新田真の顔も見ずに鼻で返事をした。

「まったく、璃子はかわいいな」

不意討ちだった。

私は顔に出やすい。

我慢我慢。

そう思っていたけど、ダメだった。

「璃子…、耳が赤くなってきてるよ」

てんちゃんが耳元でささやく。

私はすぐ顔に出てしまう。

嘘もつけないし、恥ずかしくなったら顔が赤くなるし、嫌いな人に対しては本当に嫌な顔をしてしまう。

時と場合によってはマイナスの要素になるから直すように努力しなさい、っててんちゃんに言われたことがあるけど、そんなの無理。

どうか、見ないでください。

彼が眠っていますように。

「……」

彼は何も言ってこなかった。

きっと見ていないんだ。

よかった。



「璃子!聞いたー?大輔先生って29歳なんだって」

今日も1日が終わり、ホームルームが始まろうとしていたときに美香は教室に入ってきた。

「し、知ってる」

あまりの迫力についのけ反って、新田真の机に寄りかかった。

新田真はどうやら寝ているようだ。

「なんで!なんで知ってるのー」

「き、昨日、体育の授業があったの。そのときにうちのクラスでも29歳だって」

「でもでも、誕生日は今日だって」

「うん。それも昨日言ってたよ」

「なーんだ」

そう言って美香は私の膝の上に乗ってきた。

どうやら美香は自分の方が早く知ったと思っていたようだ。

しかし、私の方が早く知っていたから落ち込んでしまった。

「もーう」

美香は私の膝の上に乗ったまま、右手で私の机の左手で新田真の机をバタバタと叩いた。

「み、美香。やめなよー」

「ふはぁー」

机に衝撃を感じた新田真が目を覚ました。

「璃子、うるさいなー。何だよ」

「ごめん。何でもありません」

「そう」

新田真は顔を上げたと思ったら、またすぐに伏せてしまった。

「え。えっ?」

新田真を見た美香の顔が変わった。