私の彼、後ろの彼。



「お父さんにケーキ買って帰りたいからいいところあったら教えて」

「うん。分かった。帰りに行こうね」

「うん」

お父さんは甘いものが大好きだった。

特にイチゴのショートケーキに目がなかった。

家族の誕生日には、主役の好きなケーキをホールで買ってきて、そして必ずイチゴのショートケーキを自分用に買ってくる。

小さい頃はよく「ズルいズルい」ってお姉ちゃんと2人で、お父さんのショートケーキをもらっていた。

「璃子。涙を拭いて」

てんちゃんに言われて気がついた。

いつの間にか私の頬には一筋の涙が光っていた。

やっぱりお父さんのことを思い出すと泣いてしまう。

涙を拭って、息を整える。

角を曲がると美香が待っていてくれた。

テニスのラケットらしき物をもっていた。

そういえば昨日美香に誘われるまま、テニス部に入ることになったんだった。

「璃子。おっはよー」

美香は相変わらず元気だった。

「美香、おはよう。あれ、健人は?」

「健人ね、今日から朝練に参加するんだってさ」

「え、もう?」

「うん。昨日部活に行ったら、監督に気に入られたみたいで、今日から朝練にも参加しろって言われたんだって」

「へぇー。そうだったんだ」

健人は中学のときからバスケ一筋で、美香同様スポーツマンだった。

中学選抜にも選ばれたことがあった。

「私たちもテニス部で先生に気に入られるようにがんばろう!」

「う、うん」

美香はライバルがいると頑張れるタイプ。

私は皆さんがお察しの通り、ライバルがいると余計に弱気になってしまうタイプ。

美香とは正反対の性格だったから。

今日は暖かい。

風が優しく吹いた。

スッ

自転車に乗った人が赤いランドセルを背負った小学生を後ろに乗せていた。

「えー。あれって兄妹なのかな」

どうやら美香も見ていたようだ。

自転車を漕いでいた人は男子高校生。

しかも、光ヶ丘高校の制服だった。

「あれ、うちの高校だよね」

「んー?そうだったかな」

気にならないということは、この件に関して美香は興味を引かれなかったようだ。

でも、私は自転車の2人をずっと見ていた。

「何見てるんだ」

てんちゃんにもそう声をかけられた言けれど、なぜだか目を離せなかった。

目を話せなかった理由は…。