抜き差しならない社長の事情 【完】



「……」

見ればエレベーターの中にいるのは切野社長一人である。



乗らないでやり過ごすのも悔しい気がした紫月は、
ツンと澄ましてエレベーターに乗った。


すると、おもむろに


「マンション、亜沙美と住んでるだってな……」

と社長が言う。



――なによ、
と思いながら紫月はムッとして答えた。


「そうよ」



「……部屋、貸してやろうか?

  ――空いてるマンションがあるから」



―― マンション?




「制服を支給していただいただけで、十分です」



「でも、潰れそうなマンションにいるんだろ?」




――潰れそう?


そう言われて、プチッと紫月の中の何かの糸が切れた。


「はぁ? 潰れそうで悪い?!

 バカにしないで!」