大きな仕事が終わると、幸田社長がデリバリーのピザを頼み、
『お疲れさん!』とビールで乾杯して、
うららかな春は郊外でバーベキュー、夏はビヤホール、秋は温泉へ社員旅行、冬は忘年会。

みんな仲が良くて、
いつしか紫月にとってかけがえのない職場になっていた――。

しみじみとそんなことを思いながら、

紫月はポツリとつぶやいた。


「ハッピーだったなぁ……」






それから間もなく、
ほとんど誰にも気づかれないようにして

『ハッピー印刷』は廃業の日を迎えた。



「こうして見ると、よく崩れ落ちなかったな」


相原と並んで紫月が見上げたビルは、
戦いきった老兵が無事に勤めを果たして静かな眠りについたように見えた。


「本当ですねー、貸していた他のフロアは暫く空っぽだったし、
 なんだか引退を待っていたみたい。

 課長、ここはこの後、どうなっちゃうんですか?」


「建て替えて、マンションになるらしい」


「オフィスじゃなくて?」