「うん、そうなんだよ。
 ほんとにね……私の心配までしてくれて社長優しいから。 ありがたいことだよ」


紫月はそう言って、

フォトフレームの中の写真を見つめながら感慨深げにため息をついた。



全員が楽しそうに笑っている写真は、

紫月が入社した年の社員旅行の時に撮ったものだ。



その様子を見ていた亜沙美も、

遠い目をしてうんうんと小さく頷いた。



正社員として『ハッピー印刷』に就職できるまで、
紫月がどれほど苦労をしたのか。

そしてハッピー印刷に就職した紫月が、愚痴も言わずにどれだけ頑張って来たか、

亜沙美はずっと見てきたのである。



「そっかぁ…… でもちょっと残念だねぇ。
 名前通りの会社だって紫月よく言ってたのに」


「―― うん。そうなんだよねぇ」





出来ることなら、ずっとハッピーで働いていたかった。


お給料は高くはなかったし、ビルはおんぼろだったし、

仕事に慣れるまでは間違いをしでかして、よく叱られた。


出来ない自分が情けなくて、こっそりトイレで泣いたこともある。


でも楽しい想い出は辛い想いでの何十倍もあった。