抜き差しならない社長の事情 【完】


次の日、

他の女子社員のように早く退社した紫月は、
着物に着替えて髪飾りを持って美容院にいき、


「いらっしゃい紫月ちゃん、やっぱり着物似合うね~」


「ありがとうございます」


着物に合わせて華やかにセットをしてもらうと、久しぶりにタクシーに乗った。



少しでも運賃を安く済まそうと
手前でタクシーから降りてホテルへと歩いていくと、

外人さんはもちろんのこと、道行く人が紫月を振り返る。


それくらい着物を着て歩いているということが珍しいという現実が、
紫月に寂しさを募らせた。


――日本の美なのに……


紫月には、ずっと手放さずに持っている大切な着物が数枚ある。

今日着た訪問着もその中の一枚で、亡き祖母が紫月の為に名のある作家に頼んで作ってくれた加賀友禅だ。

この一着だけで数百万円の価値があると、誰がわかるだろう……。