***
「倒産!?」
コートを脱ぎかけた手を止めて、
零れそうなほど大きく目を見開いて振り返ったのは、紫月のルームメイト亜沙美だ。
「倒産じゃなくて廃業。
誰にも迷惑をかけないで済むらしいんだ」
大学の同級生である紫月と亜沙美は無二の親友で
4年ほど前から一緒にこの部屋を借りている。
「社長の話だとね、少しづつ計画していたみたい。
引退した後は空気のいい田舎で、奥さまと第二の人生をのんびりと過ごすことにしたらしい。 病気をしたことでね、
踏ん切りがついたって言ってた」
そこまで聞いて、亜沙美はホッとしたように
ニッコリ微笑んでまたコートを脱ぎ始めた。
「そうか、
じゃあ辛いだけじゃなくて、明るい別れだね」
「うん。
社長が回復したら、課長と3人で快気祝いと一緒に門出を祝う送別会を開くことになったんだ。
あ! そうそう、あのね、
私の転職先も社長がなんとかしてくれるみたいでね、課長と一緒に同じところに転職できるらしいの!
なんかすごくない?」
「え? それはすごいね! 就職活動しなくて済むんだ」



