抜き差しならない社長の事情 【完】


「はーい 課長、エスプレッソでーす」

「おお サンキュー」

 珈琲を受け取った相原は、

「なぁ紫月 俺は課長じゃなくてマネージャだぞ。
 いつまで課長って呼ぶつもりだよ」と笑った。



変わらない相原の笑顔に、
紫月のささくれ立った心のひだが、そっと優しく撫でられたように癒えていく……。


「いいじゃないですかー 私にとっては課長はずっと課長なんですから」


 クスクス 


「まぁ、別にいいけどな」


「お? 紫月、ブラックか?」


インスタントコーヒーにたっぷりのミルクと少しの砂糖を入れて飲むのが
ハッピー印刷にいたころの紫月の習慣だった。


「え? ああ はい。
 アメリカンですけどね」


「大人になったなぁー」



「アハハ エスプレッソへの道は遠いですけどね」