昨日、総務の女性社員で紫月より年上の保科女史から、
『ハナちゃんは、切野社長がキャバクラでスカウトしてきたらしいわよ』と聞いたばかりだ。
それだけでなく、曄は社長の愛人だとか、
恋人だとかいう噂も聞かされた。
そして噂話の最後に、保科女史は
『おっぱい星人なのね社長ったらもぉ クスクス』
と既婚女性の余裕の笑みを浮かべていたのである。
美人秘書相手に鼻の下を伸ばしているであろう元恋人を想像して、
紫月はうんざりしたように心で溜め息をついた。
お金と権力は人を変えるんだ……。
お金も権力も無くしたパパとママが、見る影もないほど人が変わったように。
――蒼太はその逆ね
そんなことを思っているうちに、聞こえていた笑い声が足音と共に離れていく気配がした。
「……。」
ポツンと一人ここに残されたからといって、
別に悲しくはないと自分に言い聞かせるように、紫月は唇をきつく閉じた。
もう、七年も前に終わっているのだから……



