抜き差しならない社長の事情 【完】



あと何だっけ…… 辞めたい理由



あ、そうだ。

制服がないこと。

 制服がないと服を買わなくちゃいけないし、洋服代はばかにならないから――


などとつらつら考えながら喫茶コーナーに向かうと、



「あはは」

ハナちゃんこと秘書の元木曄の楽しそうな笑い声が、紫月の耳に届いた。


「……」

――誰と一緒にいるの?


なにやら嫌な予感がして足を止めた紫月は、

ゴクリと息を飲んできつく唇を噛んだ。



 蒼太が曄ちゃんと、もし、イチャイチャしていたら……




 たとえそうだとしても

  ―― ここでUターンをしてはダメ



この素敵な会社を辞めるにしても、今のこの気持ちのままではだめだ。


今逃げるように辞めてしまっては、蒼太の記憶に残る最後の私は

『落ちぶれたもんだな』

という言葉とおりの私になってしまう。



同じ嫌われて去るにしても、もっと颯爽と消えたい。

そう思いながら紫月は唇を噛んだ。