抜き差しならない社長の事情 【完】

「今日はありがとうございます。
 歌と言っても私は最近の歌はよくわからないので、
 少し前の歌ですが学生の頃に流行っていた歌を歌います」


選んだ曲は、蒼太が好きだった歌だ。


二人でカラオケに行くと
『紫月歌って』と言ってせがんだ曲は、
当時流行ったリズミカルなKポップ。


心の中で
『蒼太なんて忘れてやるー!』と叫び、
やけくそとばかりに踊りもつけてノリノリで歌ってみせた。



 私だって変わったんだから! 

 何もできなくて、ただ泣いていた私じゃない!


 強くなったんだ!



「紫月さんサイコー」

 アハハ

いい加減酔っていたこともあって、
皆も一斉に立ち上がって紫月と一緒に踊りだした。



盛り上がる中で、曄がふと踊りをとめた。


「あれ?」

「ん? どうした」

「今、社長がいたような気がするんですど……」


曄はそう言いながら入り口のドアへ向かい、

廊下を覗いたが誰の姿も見えない。


「誰もいませんでした。気のせいですねぇ」