抜き差しならない社長の事情 【完】



 変わらなかったのはストームグラス……



昔、蒼太の部屋にあったストームグラスは
社長室にあったものよりももっと小さくて

あんなにお洒落なものではなかったが、蒼太はとても気に入っていた。


 ――でも、それだけ か



やり場のない鬱々としたものを振り切るように、

紫月がグラスの中のチューハイをごくごくと飲んだところで、


「次、夢野さんも一曲どうぞ!」 


 とタッチパネルの目次録を渡された。


「! え?」


「ほら、俺は歌ったぞ。
 お前まさか、聞いてなかった訳じゃないよな?」


といつの間にか隣に戻って、睨む相原にアハハと笑って誤魔化した紫月は酔っていた。


人前で歌う事は苦手だが、
照れる気持ちよりも今は吐き出してしまいたい気持ちの方が大きくて

グラスに残っていたチューハイを一気に飲み干し、

キュッと拳を握り、紫月は立ち上がった。