抜き差しならない社長の事情 【完】


エレベーターの中にいる姿や、廊下を歩く姿は見かけるけるけれども、


切野社長は紫月のそんな想いなど、まるで関係ないというように、

いつだって颯爽としていた。



切野社長が歩いてくると、

社員たちはそれとなく道を譲るように、廊下の隅に寄る。


そして社長は譲られた真ん中を悠々と歩く。



ある時は、社員の誰かと話をしながら難しい顔をして、

 ある時は忙しそうに電話をしながら、


そんな様子はいかにも一代でここまで『Kg』を築いた青年実業家らしく
堂々としていて、

おとなしくてどちらかと言えば目立たないよう教室の隅にいた蒼太の面影など
どこにもなかった……。



あの意地の悪いメッセージを送りつけられた事は、
元はと言えば自分が悪いのだから、
 仕方がないと、あきらめている……。


でも、

知れば知るほど切野社長は
自分の知る蒼太ではなくなっているようで、

その事が心の奥でわだかまる……。




「……。」


今の2人の関係は社長と一社員に過ぎない。


同じ会社にいても、2人の距離は遠く離れていることを、

紫月は痛切に実感させられる毎日だった――。