抜き差しならない社長の事情 【完】


―― 蒼太が…… 社長?

何もかもが真新しい自分の席に感動する余裕もなかった。



「紫月、緊張しすぎだろ」

「え!  あはは すいません……」

「まぁでもよかっただろう?
 営業の俺の補佐ってことだから今までとそう変わらないさ」


「えぇ、そうですね。よかったです」



動揺したまま、パソコンの電源を入れたり文具を確認したり、
形ばかり手を動かしているうちに、

ふと思い出して、ファイルから雇用契約書を取り出して広げてみた。


雇用者の欄に書かれている代表取締役社長『切野蒼太』という文字に

紫月の視線は釘づけになった。



別れてから7年。

社長になって現れた元恋人は、洗練されて驚くほど素敵になっていた……。


7年前はいつだって安物のジーンズを履いていて髪だってボサボサだったのに。


――もしかして、蒼太はハッピー印刷から来るのが私だと知ってたの?

 その上で雇用を申し出てくれたの?


驚きの代わりに湧き起こってきた淡い期待に、図らずも胸はときめいた……。


すると、ポンと、軽い音がパソコンから聞こえた。