抜き差しならない社長の事情 【完】


思わず、悪い?

と返してしまいそうになったが、軽く息を吸ってグッと堪えた。


かといって、代わりになる言葉が浮かぶわけでもなく……

一旦開けた唇を、また閉ざした。



珈琲が落ちるのを待って


「お待たせしました。すいません」


スッと頭を下げて、

その場を離れようとすると……


「ごめん 紫月」


という声が紫月の足を止めた。


  え?



カップを手に、紫月は恐る恐る振り返った。



「悪かった。あんな言い方をして、本当に悪かった。ごめん紫月」


切野社長はそう言って頭を下げた。



「別に…… 謝らないでいいです」


「でも」



「謝られても、私が惨めになるだけです。やめてください」



それは、自分でも驚くほど、

冷たい声だった。