抜き差しならない社長の事情 【完】


「はい」

『紫月、引っ越ししたのね。ハガキが届いたわ』


「うん。急だったからね、ちょうど電話しようと思ってた」


『ねぇ、紫月いつまで東京にいるつもりなの?
 あのね、紫月にお見合いの話があって』

「ママ、お見合いはしないって言ったでしょ」

『あ……、ごめんね 紫月、
わかったわ…… お見合いはいい

 ごめんね』


高崎に行ってから、紫月の母は変わった。

人はそう簡単に変わらないというが、何もかも無くして絶望の淵に立った時に
母は変わることが出来た。

自信を失った代わりにガックリと弱くなったが、
時の経過と共に少しづつ明るく元気になっていって、今はこうして落ち着いて話をすることもできる。


「ママ、パパは元気?風邪ひいてない?」

『うん 大丈夫よ 紫月は元気?』


「うん 元気よ 
 ねぇママ、
もし、お見合いの話しないでくれるんだったら、週末行こうかな、そっちに」


紫月の母は喜んで、

『いらっしゃい!いらっしゃい! お見合いは今夜のうちに断るわ』

と声を弾ませた。


電話を切った紫月は、もう潮時なのかもしれないと、ふと思った。


新品のものに包まれたこの部屋は、
『Kg』が素敵なように、とても魅力的だけれど…… 


今の自分には、あまりに不似合いに思えた――