抜き差しならない社長の事情 【完】




  ***



「あの……」

 !

ふいに声を掛けられて
紫月が振り返ると、

そこにいるのは切野社長だった。


「――なんでしょうか」


「し……、いや、
夢野さん。あの……辞めるというのは……」

「あ、すいません、なるべく早く辞めますね」

「いや!
別に辞めなくてもいいんじゃないかと」


「……。」

「ごめん、いや、あの……」


「同情なら結構です。一日も早く見つけますのでご安心してください!」


「ちょ!」


取り繕う余裕など、紫月にはもうなかった。


――近いうちにこことは縁も切れるし、
 どうせ辞めるのだと思えばもう何も気にならない


プイッ と踵を返した紫月は、珈琲を片手にスタスタと廊下を進んでいく。