抜き差しならない社長の事情 【完】



語り掛けるようなその声は、懐かしい優しい響きを帯びていたが、

紫月の固く閉じた心には届かなかった。
 



もう何も考えたくはない――

 紫月の頭にあるのは、一刻も早くこの部屋から出ることだけだ。



「なにもありません」


テーブルの上に視線を落としたまま、頑なな姿勢を崩さずに紫月がそう答えると、


「紫月、ちゃんと目を見て話して」と社長が言う。




――え?

名前を呼ばれたことに、ハッとして視線をあげると、


切野社長は


「何か言いたいこととか、聞きたいことは?」と言う。



「なにもありません」


「紫月……」