抜き差しならない社長の事情 【完】



ゴクリと息を飲んだ紫月は

「いえ、これを渡すだけなので……、失礼します」

テーブルの上に紙袋を置いてすぐに部屋を出ようとしたが



「ありがとう、とにかく座って」

切野社長の毅然とした声が響く。



「……」


やむなく立ち止まった紫月はキュッと唇を噛んで、

緊張した面持ちでそっと椅子に浅く腰かけた。



そして、向かいの席に切野社長が座ると、

「――先日は、すいませんでした」

と、エレベーターでのことを謝りながら深々と頭をさげた。


普通に考えても非があるのは自分であるし、
機会があればこれだけは謝っておこうと思っていたのである。



「いや、別に……」と短く答えた社長は


「それより何か困ったことはない?」と聞く。