抜き差しならない社長の事情 【完】



  ***




そして迎えた、バレンタイン当日。



朝から次々と社長室に女子社員が現れて、

「失礼しました」

頬を染めながら社長室を出て行く。



エレベーターの扉が開く度に、パソコンから顔をあげてチラチラと覗いていた曄は、

その度に軽いため息をついていた。



そんな中、午後一時過ぎになって、

 チン と鳴るベルと共に紫月が現れると――


「あ、紫月さん」ニコニコとうれしそうに立ち上がった。


「どうぞどうぞ、
社長はお部屋にいらっしゃいますよ」




でも、紫月が歩く先は社長室ではなく、

「あの……、社長に渡していただけますか?」

と曄の席の前にあるカウンターに、小さな紙袋を置く。