抜き差しならない社長の事情 【完】


切野社長は、重たそうにゆっくりと口を開くと


「昔ね、すごく好きな子がいたんです」


そう言ってテーブルに視線を落とした。



「幸せで大好きで、
彼女との未来しか考えていなかった……

若かったんですよ」


「何言ってんですか、今だって十分若いでしょうに」


 クスッ

「もう何年も前のことです。
恋愛はそれきりですね、今は仕事が忙しくてそれどころじゃありませんし」


唇を閉じてしまった社長を促す様に、相原が

「その子とはどうしたんです?」と聞いた。



「別れてしまいました。

今でも時々考えるんです。

あの時どうしていたらよかったんだろうってね」




「――答えは出たんですか?」



「いえ……

 今はただ――

   自分の不甲斐なさに憤りながら、


 彼女の幸せを願うだけです……」