抜き差しならない社長の事情 【完】


「まぁ今のところはね。

独りも慣れ過ぎると、これはこれで楽だから」


そう言ってクスッと笑った相原は伏し目がちに


「夢野がね、
誰ももらってくれなかったら嫁にもらってくれって言うんですよ……」


そんな事をしみじみと言いながら、

指先で持ったグラスをゆらゆらと回した。



「え?」



「あいつ美人でしょ。
気持ちも優しいし、結構モテるんですよ。

なのに誰かに義理立てしてるのかなぁ、

『私は恋はしないことに決めたんです』とか言って、片っ端から誘いを断って。

それでも時々寂しくなるんでしょうねぇ」


「……」


「一体何があったのかわかりませんが、
なんだかいじらしくてねぇ。

そのまま40にでもなったら、その時は嫁にしてやるよって言ったんですよ。

その時、俺はもう50だけど」


そこまで話してクスッと笑った相原は


「社長はどうなんです?

 結婚とか考えていないんですか?」

と聞いた。