高屋は兄が運転する車に乗って奈津がいる空港に向かっていた。

天気がよく窓に差し込む光。

空を眺めながら、奈津への想いを膨らませていた。

奈津からの最後の手紙にはこう書いてあった。

『高屋へ
今まで、ありがとう。あの時、高屋が助けてくれてなかったら私は、この世から去ってるとこだった。高校で高屋に再会できた時、本当にびっくりした。高屋が私を初めて助けてくれたあの日、あの虹をどうしても忘れたくなくて、写メまで撮って、辛い時それを見て自分を励ましてた。いつか高屋にまた会えるのを楽しみにしてた。だから、今の私がいるんだよ。
高屋は私にいろんな事を教えてくれた。
本当の友達も恋も大切な笑顔も。皆高屋が教えてくれた。
だから高屋には、本当に感謝してる。
高屋は私にとって、大切な春風だったよ。
高屋の事が大好きです。高屋がウソでも私を好きだって言ってくれて嬉しかった。
高屋は私にたくさんの笑顔も幸せもくれた。
だから、私は高屋を応援するよ。遠く離れた場所で高屋が幸せになるように。
高屋にもきっと、大切な春風が来る事を。
高屋なら、本当に暖かい春風の人に会えるよ。
私が会えた春風の人のように。
私は、あの虹が春風を運んでくれたと思う。
だから忘れない。あの虹もあかねも長谷部も高屋も。高屋との思い出も。みんな大切な私の宝物だから。
高屋…本当に本当にありがとう。
今度は、哀れみとか偽りじゃなく本当の愛を見つけてね。高屋ならきっとすぐ見つかるよ。

高屋…会いたい。アメリカに行く前に会いたい。嘘でもいい。別れる前に…最後に奈津って呼んでほしい。でも…ムリだよね。

私、頑張る!頑張っていろいろ研究して学んで大人になって、高屋に胸張って会えるように、がんばる!高屋も夢を叶えられるようにがんばれ!高屋…バイバイ。水月奈津より」

高屋は奈津からの手紙を読み終えた時、父さんの声が聞こえた気がした。

「春翔!がんばれ!」

母さんの言葉を思い出した。

「春翔?いつかあなたも本当に愛する人ができた時、ちゃんと最後までその人の幸せを祈るのよ?幸せを祈ればあなたもちゃんと幸せになれるから」ニコっと笑う母さんの笑顔は暖かくて、優しい笑顔だった。

高屋は空港に着くと搭乗口に走る。

あかねが奈津と別れるとこだ。

アメリカ行きへの案内放送が流れ、奈津の母親が先に搭乗口に入って行った。

あかね「じゃあね。奈津。お互い頑張ろうね」
奈津「うん。ありがとう。あかねも元気でね」

奈津はあかねに手を振り搭乗口へと歩き出すと後ろの方から高屋の声が聞こえた。

奈津は立ち止まり、耳をすませた。

「奈津〜!!」

奈津はゆっくり振り返ると高屋が走って向かってきた。

高屋は奈津の手の平に何かを乗せ、奈津の手を閉じさせる。

奈津はゆっくり手のひらを開けると、イルカのキーホルダーがあり、高屋を見上げる。

高屋「これは、お守りだ。お前が辛い時でも、大切な事を忘れないために」

奈津「たか…」

高屋は奈津を強く抱きしめ奈津の声を遮った。

高屋「俺は…奈津が大好きだ!やっぱり水月奈津が大好きだ!だから…だから…大好きな人には夢を諦めてほしくなかった。」
奈津の肩に高屋の声が響く。

高屋「待ってるとも待ってろとも言わない。俺は俺の夢を叶える!それで、立派な大人になっていつか奈津に会いに行く。それまでに、もし一緒にいて幸せになる人が現れたら迷わずそいつと一緒になれ!幸せになれ!俺もおまえにもらった大切なものを宝物にする。」

奈津はまぶたの裏が熱くなり、涙が溢れ出てきて、手を高屋の背中に回した。

高屋は奈津からゆっくり体を離し、奈津の頬を流れる涙をそっと親指でふき取る。

高屋「奈津…最後にキスしていい?」

奈津は高屋の肩を持ち背伸びをして、涙交じりにキスをした」

奈津は高屋から体を離し、走って搭乗口へと入って行った。背中を向けたまま手を挙げて振っていた。

高屋は奈津の手が見えなくなるまで大きく手を振った。「またな〜水月〜!」大きな声で言った後、奈津の手は見えなくなった。

あかねと長谷部と高屋の3人で奈津を乗せた飛行機が飛んで行くのを見送った。

長谷部「行っちまったなぁ…」
あかね「大丈夫かな…奈津…」
高屋「大丈夫だよ…あいつなら。すっげぇ宝物持ってるから…」

その後、高屋はいつも通り学校へ行った。

奈津がいた教室を通る度、奈津の席に面影を感じ、奈津がいた図書室でも、校舎裏の花壇でも、奈津の姿が映っては消えの繰り返しだった。

奈津が使っていた下駄箱。出口で笑って歩いていく奈津の姿が高屋の目に映り眺めている。

長谷部「な〜に愛しい女を想像してんだよ!」
背後から高屋の首を腕で包む

高屋「してねぇよ!」顔を赤くしてごまかす。

長谷部「顔が赤いぞ〜!」カバンで背中を叩き校舎から出ていく。

高屋「うるせぇ〜〜!」長谷部を追いかけ、長谷部のお尻を蹴った。

夕焼けの空を見上げ、奈津が頑張っている事を想像し微笑んだ。


奈津はアメリカの化学研究の授業を受け、生き生きとしていた。

初めての1人暮らしでも、寂しさもなく、楽しく生活し、机のライトにぶら下げたイルカのキーホルダーを軽く突きながら、勉強に励んでいた