空がオレンジ色になり、風がやんわりと吹く公園で、高屋と奈津がベンチに座り、奈津は高屋の話を黙って聞いていた。

高屋は空を眺めて過去の話を奈津に話しながら思い出していた。

高屋「父さんは母さんを愛してて、母さんも父さんを愛してるのが、よく伝わってた。
仲良くしてるだけじゃなくて、いつも助け合ってて、父さんは仕事を終えて帰ってくると、必ず母さんにただいま。いつもありがとうって言ってた。気持ちは言葉にしないと相手に届かないからって父さんはよく言ってた。

母さんは父さんといる時の笑顔が本当に幸せそうで。俺には見せない良い笑顔するんだ。

父さんと母さんが一緒に出かけるって日は、母さん嬉しそうにおしゃれして、嬉しそうに父さんと出かけていくんだ。

あの日もいつものように2人で楽しそうに出掛けたんだ。俺が中1の時…

あの日の朝は、空気が澄んでて晴天の夏だった。俺は家でダラダラしてマンガとか読んだり課題やったり。夕方になって、勢いよく兄貴が俺の部屋にきて、父さんと母さんが!って。
俺と兄貴は必死で父さんと母さんのとこに行った。俺は嘘であってほしいって走りながら祈ってた。でも…嘘じゃなかった。
父さんと母さんは静岡の山道を車で走っててカーブを曲がった瞬間にトラックと正面衝突。2人とも即死だったって。その時担当してた刑事さんが教えてくれた。
兄貴も俺も泣き崩れた。
俺は、いくら仲良いからって天国まで行く事ないじゃん!って眠って動かない父さんと母さんに突っ込んだよ…
その1年後に熊井が自殺して、大切な人を一気になくして、俺はさすがに凹んだ。もう、大切なものをなくしたくなくて、いじめも許さなかった。俺は、親友の仇をとろうと思っていじめてる様子をこっそり隠し撮りして、校内放送で皆に見られるように全教室のテレビに流して、熊井をいじめてた奴らは、親にも先生にも怒られて、熊井の家に謝りに行って気持ちを入れ替えてた。
学校側もいろいろ改善して、いじめ撲滅会とか作って良くなった。

俺の中で達成感みたいなものがあって、スッキリした。

その後、水月があの店の前で数人に囲まれてるのをみて、一瞬でいじめだって察した。

俺は、どうやって助けたらいいかわからなかったけど、気づいたら店の中でおまえを見てて、勝手に手が動いておまえを助けてた。

夢中で走った。ちょっと怖かった…。

でも、あの虹を見ておまえが笑った。その横顔が母さんに見えたんだ。

俺はおまえの笑顔が心に残って、忘れられなくて熊井と同じ事してなきゃいいなぁ。ってずっと思ってて。

だから、高校でおまえに会えた時、本当に嬉しかった。
生きててよかったって。安心した。

その時から俺の中で止まってた時計が動き出して、気づいたらおまえを好きになってた。

俺は水月に気持ちを伝えた時、心臓バクバクだった。怖かった。あんな気持ちになったのは初めてだったから。

水月が俺を好きだって言ってくれた時は本当に嬉しかった。夢みたいだって思った。

俺は、水月の笑顔のためなら何でも出来そうな気がした。水月の笑顔を守り続けたいって思った時、父さんが母さんの笑顔を守ってる気持ちがやっとわかった。

今日さ…親と事故に遭ったトラックの運転手に会った。アイツが居眠り運転をしたせいで俺の父さんと母さんを奪った。許せなかった。
悔しかった。けど、殴れなかった。兄貴に言われた。殴っても何も変わらないって。

このままじゃ、俺どうにかなりそうで。
気付いたら水月に会いに来てた。
水月にもし、会えなかったら多分…アイツを捕まえて殴り殺しに行くとこだった。

でも、水月に会えたから…人を殺める事をしなくて済んだ」

奈津「高屋…ありがとう。話してくれて」
高屋に優しく微笑み話を続けた。

奈津「高屋があの日助けてくれてなかっら…あの虹を見ていなかったら、今の私はここにいなかった。高屋がいたからいろんな事知った。

あかねも長谷部も高屋がいたから、私と友達になれた。

恋も本当の友達も高屋が教えてくれた。

私ね…あの虹を写メ撮ってずっとお守りにしてたんだ。だから耐えられた。

高屋は…もう1人じゃないよ。私もあかねも長谷部も高屋の側にいる。

だからもう…1人で悩まないで…」

高屋はフッと笑みをこぼした。

高屋「水月…キスしたい…」

奈津「今?ここで?」
奈津は周りを見渡し人がいない事を確認する。

奈津「少しだけだよ…」
高屋の顔を覗き込む

高屋は奈津に軽く唇にキスをし、改めてまたキスをした。ジュースの味が奈津に伝わった。

奈津「もう。少しって言ったじゃん」
口を尖らせるが表情は笑顔だった。

高屋は自分の額を奈津の額と合わせ心を落ち着かせた後、頭突きした。

奈津「痛!」手で額をさすりながら頬を膨らます。
高屋と奈津はじゃれ合い、高屋の中に奈津の存在を大きく感じた。

ある日、高屋兄は会社で仕事をしていた。
「高屋さ〜ん。お客様です」

兄が出口の方を見るとお墓に来ていた容疑者の男性が軽くお辞儀をして立っていた。

兄は容疑者を会議室に案内した。

兄「先日は、弟が取り乱してすいません」
軽く頭を下げ、顔をすぐ上げた。

兄「でも、あいつの気持ちもわからなくないですよね?」

男性「本当に申し訳ない事をしたと思っています」そう言葉を言った後ひざまつき土下座をし始める。

兄「やめてくれよ!そんな事されたって嬉しくも何ともない!」容疑者を掴み立たせる。

兄は容疑者の胸ぐらを掴み睨みつけた。

兄「俺だってあんたを殴りたい!殴って殴って…これでもか!ってくらい」兄は容疑者から手を勢いよく離すと背を向けた。

兄「でも、そんな事、俺らの親は望んでないし、あんたを殴っても父と母が戻ってくるわけでもない。
あんたは、生きて生きて一生罪を償え!
もう…俺達に関わらないで下さい」

容疑者「高屋さん…私に何かできる事あっらいつでも連絡下さい。連絡先渡しておきます」

兄「あんたに助けてもらおうなんて思わないよ…帰ってくれ」

容疑者の男性は肩を落とし会議室を出た。

兄は窓の外を眺めていた。

その夜、兄は帰宅しリビングに入ると春翔が携帯でゲームをしていた。

兄「春翔…飯は?」
高屋「食った。ラーメン」
兄「そっかぁ」冷蔵庫を開けビールを取りプシュっと音を立て缶ビールを開けゴクッゴクッと飲んだ

兄「はぁ〜。ビールがうまい!」
高屋は呆れた顔をしてゲームに打ち込む

兄「春翔…きょう奴が会社にきた。わざわざ土下座しに。アイツ、九州の田舎に戻るんだってさ。戻って実家の農業を手伝って人生やり直すらしい」
高屋「あっそ。」冷たい目をした。

兄「アイツにだってまだ未来がある。おまえにも奈津ちゃんにも俺にもあるように…それを壊す権利は俺達にはない。父さんよく言ってただろ?罪を憎んでも人を憎むな!って。アイツがやった罪は許せないけど、アイツは奴なりに罪を償ってるんだ。それだけは、わかれ」

高屋「兄ちゃん。俺にもちょうだい?」
ビールを指差す。
兄「ダメだよ!未成年だろ?」
高屋「なんで、いいじゃん少しくら〜い」
兄「ったく。しゃーねぇなぁ。今日だけだぞ!それと、酒は家の中だけにしとけよ!」とビールを冷蔵庫から出し高屋に放り投げた。

兄は冷蔵庫の食材で適当につまみを作り机に置いた。
高屋は箸を手に取り、一口食べる

高屋「まず!」
兄「おまえ、人が作った物まずいとか言ってんじゃねぇよ!」兄も一口食べる

兄「まず!」口から吐き出し三角コーナーに捨てた
高屋はその姿を見て笑った。

高屋「だから、言ったじゃん!まずい!って」

久々に仲良く笑い合った高屋兄弟だった。