水月奈津(みづきなつ)15歳。中学3年のある日の事だった。
奈津はクラスメイトからいじめに遭っていた。
駅通りの店が何軒かあり、ある1軒の店前で2〜3人の女子に囲まれている。
いじめっ子の中でリーダー的存在のA子が奈津に不気味な笑みで睨みつけながら言った。
「ね〜奈津。あんたこの店の物取ってきてよ」
奈津は首を横に振る。A子は壁に手を伸ばし奈津を睨み奈津の耳元で言う。
「だって〜私達、友達でしょ?」
他の女子達も奈津を攻めるようにニヤっとしている。A子は奈津の制服を掴み奈津を店の中へと入れる。奈津はゆっくり店内を見渡しながら店の奥へと入って行った。
ネックレスが並ぶ棚の前で奈津は止まりいじめっ子達の顔を伺う。いじめっ子達は入り口でアゴで奈津に指図している。
「誰か…助けて…」奈津は心の中で叫んだ。
奈津は目の前に並ぶネックレスを手に取り制服のポケットに入れようとした。
その時、ポケットに向かう奈津の手を横から掴む手。「おまえ…何やってんの?」低い声がした。奈津は、体が凍りついたかのように固まった。どこから来たのかわからない青年は奈津の腕を掴んだまま取ったネックレスをそっと店の棚に置き「ちょっと来い!」と奈津を店の外に連れ出す。「走れ!」とまた奈津に命令口調で言い店から出た瞬間2人は走り出した。
いじめっ子達は何が起きたのかわからないまま人混みを走って行く2人をただ見ていた。
青年は奈津の腕を掴んだまま走り続けた。
小高い丘の小さな公園の中に入り2人の手が離れる。2人とも汗だくだ。ハァハァ…と息を切らしている。奈津は腰を曲げ下を向いていた。
「おまえ…何やってんの!?」青年は息を切らしながら怒鳴るような感じに言った。
奈津は答えないまま。ただ下を向いていた。
青年は、しゃがみこみ息を整えながら口を開く
「あれが、おまえの友達か…?」
「…だとしたら、おまえ頭おかしいよ…」
青年の言葉に奈津は泣き崩れた。
泣いてる奈津の頭を青年はそっと撫でながら
「おまえ…よく我慢したな。辛かったな。」

青年は、奈津が無理矢理万引きさせられるところを店の中からこっそり見ていたのだ。
奈津が攻められている一部始終を見ながらいじめだと察していた。携帯のカメラで奈津の行動を見ながら奈津がネックレスに手を出しているところを見る。ネックレスを持つ奈津の手がポケットに向かうところを青年は奈津の手を掴んだ。奈津の手が震えて怯えているのが伝わっていた。

奈津が少しずつ落ち着いてくる。
青年は、空を見上げ微笑んだ。
「おい…見てみろよ。涙…止まるよ」
青年は奈津に笑いかけて囁いた。
奈津が、青年の見る方へと目を向けると空に虹が2本並んで出来ていた。虹をみた奈津は涙がピタリと止まり、目を大きく開き笑顔になる。
青年は立ち上がり奈津から離れる。
「あの…」奈津が震えた声を出すと青年は奈津に背を向けたまま足を止めた。
「ありがとう…ございました」奈津は頭を下げた。「いつか、おまえにも本当の友達ができるといいな」青年はそう言い残し歩いて行った。

青年の姿が見えなくなり、奈津は虹をもう一度見ると携帯で写メを撮り保存した。

奈津は、その後も学校で嫌がらせはうけていたが、虹の写メを見る事で耐えていた。

自宅で写メを見る奈津。
「あの人は、今…何してるんだろう…」
「また…会えるかな…」
奈津はあの時、助けてくれた青年の笑顔が忘れられないでいた。

月日は流れ、春になった。

街の中は桜が咲いて春の風が優しく吹いている

水月奈津は高校生になった。

入学式の日、またいじめに遭うのではないかとビクビクしながら教室へ行く。

自分の席に座った奈津は虹の写メを見ながら気持ちを落ち着かせていた。

「おはよ!」と。突然誰か奈津の前に来た。

奈津はドキッとして顔を上げる。

奈津の前にいたのは笑顔で話しかけるクラスメイトだった。

「お…おはよ…」奈津は震えた声で言った

「どうかした?」クラスメイトの女の子は奈津の顔を覗き込んで聞いてきた。

「う…ううん…何でもない」慌てて携帯を膝に隠す奈津。

「藤野あかね。よろしくね。あ。'あかね'でいいよ」と。ニコニコして奈津の前でブイサインしたあかねが言った。

奈津「水月奈津…です」恥ずかしげに言った。

あかね「奈津かぁ…いい名前だね」と微笑む

奈津「そうかな…」
自分の名前を褒めらる事が初めてだった奈津は動揺していた。

数分で2人は打ち解け笑い合っていた。

廊下がザワザワしている…

「高屋くん❤️」
「長谷部くん❤️」
「キャ〜!キャ〜!」

あかね「やっぱ、もてるなぁ。アイツ等は」
廊下の方を見ながら呆れたような顏で言った。