「…夏祭りの人?」



その恋という名前の女性は不思議そうに首をかしげた。



「あ、すいません。恋さんですね。初めまして。…秋弥の…婚約者さんですよね…?」



婚約者を連れてくるってことは…結婚するとか…?


なんでそれを私に…。



もうはっきり別れてって言われた方が楽よ…。



また涙が出そうになる。



「え?婚約者?」



私が泣きそうになっていると、恋さんは何故か不思議そうに私を見つめた。



「…秋弥の婚約者ですよね?」



「……………………?」



何故かすごく不思議な空気が流れた。



私は涙目になって、彼女見つめているのに、彼女はきょとんとして、私を見つめている。



「ぷっ。」



しーんと静まり返っている中、秋弥の口から微かに笑いが零れたのが聞こえた。



「…………え?」



状況が把握出来ない。



え、婚約者じゃないの…?



でも、海で話してた時、婚約者だって…。



どんどん頭の中がこんがらがっていく。



「ご、ごめん。やっぱり勘違いしてた。」



秋弥は泣くほど、笑ってそう言った。



「こないだ海で話してた時、千代子ちゃん、全部聞かないで飛び出して言っちゃうんだもん。」




全部聞かないで飛び出した…?



あれ…そーいえば、婚約者って言った後に、
『でも』とか言ってたっけ?



「この人は婚約者だよ?でも、兄貴の婚約者だよ^^」



兄貴の婚約者…?



「…じゃあ、なんであの日一緒にいたの?」



お兄さんの婚約者なら、2人っきりでお祭りなんて…。



「あの日は先生達で夏祭りの見回りをしてたんだけど、恋が兄貴とはぐれたなんて言うからさ。…ってなんで泣いてるの?!」



ほっとしたのか、涙腺が一気に緩んでボロボロ零れて止まらない。