洗面所で蛇口を捻り、冷たい水で顔を洗う。
冷たい水が気持ちいい。お陰で目も覚めたし。
夏は嫌いだ。
暑いし、汗はかくし、汗をかくとべたべたして気持ち悪いし。
夏の好きなところをあげるとしたら、オレンジが実る事くらいだろうか。
世の中にはたくさんの食材があるけれど、僕はオレンジが一番好きだ。
爽やかな酸味の中にある甘み。暑い夏に食べると気分もすっきりする。
キッチンにあるオレンジにひとつ手を伸ばし、剥いていく。
剥いたオレンジを口に運ぶと、甘酸っぱくて美味しい爽やかな味が口いっぱいに広がった。
美味しい。
そういえば、今日はナナがシルカと2つ隣の地位さや村までオレンジパイを買いに行くとか言って張り切っていたっけ。
なんでもそこの村のオレンジパイがすごく美味しいとかで、最近人気なんだとか。
そんな所まで行かなくても、オレンジパイなんて珍しくもないし、町のケーキ屋にでも行けばいいのに。
作るのだってそう難しいものでもないんだし。
まぁ、料理が下手なナナからしたらとても難しい料理なんだろうけど。
ナナもシルカも小さい頃からの付き合いだ。
同い年なのに子供っぽさが抜けないナナとは正反対に、シルカは大人びていて面倒見もいい。
だからきっと、ナナに巻き込まれてわざわざ遠い村までオレンジパイを買いに行ったのだろう。
イスに座り、オレンジを頬張りながらぽつりと呟く。
「今日、何をして過ごそうか」
早起きをしすぎてしまった。
やる事も無いので本棚を漁り、本を読む。
時間はたっぷりある事だし、何か手間のかかる料理でも作ろうか。
そう思いながら、残りのオレンジも全て口に運んだ。