もう少しでお昼…「あああ~~~っっ!!」
なにごと?!

叫びながら駆け寄ってきた由宇

「今度は何!!静かに!!」

紗都のデスクに辿り着くと今度は小声で

「紗都さん、今日から会議室使えないってことは、お昼ご飯は
どこで食べるんですか?」

仕事の話じゃないのか…

「今日は外食になるわね。今日中にミーティングルームが
空になるから、明日から1週間はそこね。
他に質問は?無いなら仕事に戻りなさい!」

あぁ…なんかやつあたりっぽい…
だめだめ、こんなんじゃ…
とぼとぼデスクに戻る由宇に

「由宇ちゃん、お昼はearthに二人、予約しておいて。
12時にいつものコースって伝えてね。」

「はいっ、え?え?いいんですか?はい!!
電話しま~す!!」

重い足取りからスキップに変わった由宇を
見届けながら、スマホを取り出し、ささっと操作し
ポケットにしまいこむ。

やりかけの仕事をきりのいい所まで完成させて

保存っと…そろそろ時間かな…


席を立つと、小さなバックを持った由宇が

「紗都さ~んっそろそろ時間で~す♪」
「はいはい、行きますか。」

……………………
外壁もドアも全て真っ黒で真四角の建物

看板だけが薄いベージュに緑の文字が浮かぶ

「earth」

これだけじゃなに屋さんなんだかわかんないよね(笑)

AM6:00~AM2:00 予約さえ入れれば状況に応じた料理と
飲み物を出してくれるお店

今日は由宇ちゃんが電話しただけで、紗都と由宇の二人で
ランチだと暗黙の了解ができている

「「こんにちわ~♪」」

いつも通りに入っていくと

「いらっしゃ~い♪お待ちかねだよ」

は?誰が?

「え?紗都さん誰かと待ち合わせしたんですか?」
「いや…「紗都、早く来いよ。もうできるぞ。」」

へ?

個室のドアから顔を出す壱弥

「あ、壱弥さんと待ち合わせだったんですか。
もう、紗都さん達ラブラブじゃないですか~」

「由宇ちゃんも早くおいで~(笑)」

個室を覗くと、そこには壱弥の同僚兼幼馴染の創

「あなた達、今日休み?っていうか、なんでここ?」
「壱弥に誘われて「紗都が来るなら来るだろ、普通」」

いや…普通じゃないし(汗)

「earthだって安全とは限らないだろうが「どうゆう意味だ、壱弥」」

earthのオーナー琥太郎が料理を運んでくる
「お前が一番危ないだろうが。紗都、こいつに近づくなよ。」
「近づくなも何も、紗都ちゃん来る時はお前も来るだろうが。」

あ、そういえばそうかも…

「そうですよね~考えてみたら常に壱弥さんいますね(笑)」
「いやいや、由宇ちゃん、俺だって仕事してる時もあるんよ?」

なんて壱弥が反論するも

「でも、紗都さんがearthだと壱弥さんいますよね」
「なんだかんだ言っても仲いいよな、壱弥達は。」

話しながら各々食べ始める…

向かい側に座る創と由宇ちゃんが内緒話しながらクスクス笑い出す

「二人とも、何よ」
「お前ら、言いたい事あるなら言えよ。」

「ぷッ…今日もその儀式始まったなって話してたんですよ(笑)」
「壱弥も紗都ちゃんも好き嫌いはいけませんよ?(笑)」

え?
壱弥と自分のプレートを見ると、
紗都のプレートには壱弥の嫌いなカボチャが
壱弥のプレートには紗都の嫌いなトマトが乗ってる

言われてみれば、外食の時は必ず壱弥がお互い嫌いな物の移動をしてくれる

「儀式って…そんな大がかりでもないでしょ」
「嫌いなものを無理やり食べたって楽しくないだろ」

「はぁ…私も彼氏ほしくなっちゃったなぁ…」
「俺も…結婚したくなったわ~」

「なんだ、それ」
「由宇ちゃんはまだ若いんだからいくらでもできるでしょ?」

「え~紗都ちゃん、俺は?」
「「創は少し焦りなさい」」
「そんな~」
「まずは彼女でしょ…ってあなた達二人くっつけば?」
「そうだな、利害一致してるし」
「いやいや、こんなおっさんじゃ、由宇ちゃん可哀相だろ(笑)」
「私は年上好きですよ?創さんなら特に」
「「「え?!」」

びっくりする紗都達を横目に食べながらシレッと答える由宇


みんな、食べ終わるまで無言だったのは言うまでもなく…

「「「「ごちそうさまでした」」」」

いそいそと2組に分かれ、解散…

会社に戻る道のり…

「由宇ちゃん…さっきのって…」
「紗都さん…創さんって私の事、どう思ってますかね…」
「え…創は…創は…嫌いじゃないと思うけどね。
由宇ちゃん、創の事…?」

由宇は紗都を見る事もなく静かに話し始める

「新入社員で毎日泣いてたとき、紗都さんがearthに連れてって
くれたじゃないですか。
その時初めて創さんに会って…
紗都さんがトイレ言った時、創さんが言ってくれたんです。
「仕事しててそんなに泣けるってすごいと思う」って。
「頑張ってるから悔しくて、もっと頑張りたいから泣けるんだろ?」って。
それからずっと頭から離れなくて会う度に気になって…
でも年も離れてるから相手にされないだろうって
今の今まで諦めてました(笑)」

「ごちそうさまでした」と自分のデスクに向かう由宇を
複雑な気持ちで見送りながらデスクにつく紗都

創か…
今夜は呼び出されるだろうな…

あ!午後から荷ほどきだった!

慌ててミーティングルームに向かう

その頃、40にもなってアタフタして壱弥に食い下がってる男がいる事も知らずに…