別荘に辿りつくと、夕飯の支度。菅原さんが用意してくれていた食材で、庭でバーベキューをする。
達也の肩で眠ってしまった翔だったが、部屋に入るとすぐに目を覚ました。
「今日はちゃんとしたお昼寝なしね」
キッチンで野菜を切りながら、園子は言った。
「起きていられる?」
「どうかしら……突然機嫌が悪くなるかも」
「そのときはそのとき」
達也が翔をあやしながら言った。
太陽が山の後ろに降りてくる。オレンジ色の光が、緑でいっぱいだった庭を飴色に染めていく。
「火を起こしてくる。翔を見てくれる?」
「うん」
達也が庭に出て行くと、白いシャツがオレンジ色に染まり、黒髪が輝く。
「翔、お肉食べよっか。小さく切ってあげる。それと小さなおにぎりも、作っておこうか」
園子は翔に布製のおもちゃをもたせてから、再びキッチンに立った。
しばらくすると「もう、いいよ」と庭から声がかかった。
「はーい」
園子は野菜とお肉、おにぎりのお皿を達也に渡す。
「いこう、翔。今日は特別にお外でごはんだよ」
翔を抱き上げ、デッキに出る。庭に降りると、すでに日差しを失った冷たさが、足首に触れた。
「虫よけパッチ貼ってある? 結構蚊がいる」
達也が腕をかきながら言う。
「貼ってある。パパも欲しい?」
「うん」
腕から降りたがる翔を芝生の上におろした。園子はポケットからパッチを取り出し、達也の襟元と足元に貼った。
達也が、鉄板の上にお肉を乗せると、ジュウと音が立つ。
「まーま。だっだ」
鉄板の上を覗きたい翔が、再び抱っこをせがむので、園子は抱き上げて煙のそばへと寄った。
「触ったらダメだよ。あちちだ」
「まんま」
「そう、まんま。ごはんだよ」
焼けたお肉をお皿に取り、ハサミで小さく切る。園子は翔を抱えてデッキチェアに腰掛けた。
「食べよ」
「ぱ、ぱ」
翔が達也を指差す。
「パパは、お肉をもう少し焼いてから、来てくれるから。翔先に食べよ」
「ぱ、ぱ」
園子の腕から逃れるようともがく。
「パパ、翔が……」
園子が呼ぶと、達也が仕方ないという様子でやってくる。隣のデッキチェアに座り「翔、食べよう」と言った。
それからせわしなく、達也はデッキチェアと鉄板の間を行ったり来たり。園子もじっとしていない翔に食べさせようと悪戦苦闘。二人は一口か二口野菜を口に入れたが、結局慌ただしくてほとんど食べられなかった。
「一歳児にバーベキューは早かったかな」
達也がため息をついた。

