次の年には忘れてしまう

 
 
「あと五分で、私が産まれた時間なんです。――だからそれまで」


あそこから貴方を見つけました。雪穂が祖母の墓を指すと、男性は視力が弱いのか目を細めて焦点を合わせていた。その睫毛に雪が積もり、雪穂はそれに少し嫉妬する。雪穂の睫毛ではそうも積もらない。


返してくれた傘を男性にもさせるように一歩近付いた。それは拒絶されることなく肩の力が抜ける。滅多にこんなことはしないのだ。


雪穂が、自分でも何故だろうと自問自答したままぼうっとしていると、傘がさらわれ男性の手に持たれる。そうして、雪穂の代わりに男性が、二人のために傘をさす。


「あれは、お祝い?」


目を細めたまま男性が問うてきたので雪穂は頷く。


「ちゃんと持ち帰ります。怪しまれますから」


男性が訊ねた先は、雪穂の祖母の墓の前にある丸いバースデーケーキで、付けた蝋燭は湿気って今年は意味を成さない。


同じ傘の下、近すぎる距離で見上げた男性の顔は髭が少し伸びていて、発見してしまった雪穂は恥ずかしくなり、もうこの距離から見つめることは出来なくなってしまった。


下を向き、言い訳がましく捲し立てる。


「ちゃ、ちゃんと、孤独ではないからそんな不憫だという目をしないでくださいっ」


「していないよ。そんなこと」


「ちゃんと、祝ってくれる友達はいるんです。明日の夜からはどんちゃん騒ぎです。お酒を浴びるほど呑むんです」