次の年には忘れてしまう

 
 



動かない、自分に気付かない男性に、傘と、迷った末にマフラーもかぶせてきた雪穂は、去り際触れてしまった肌の冷たさが忘れられず舞い戻ってきてしまった。


墓地に入ると、おそらくあの男性だろう人が立ち上がっている姿がある。


一歩、また一歩と距離を縮めていくうちに、雪穂の傘とマフラーを身に付けたままでいてくれるその人だと確信を得ていく。


男性の元まで近づくと、戻る前にコンビニで買ったカイロを男性の手に握らせた。買った直後に封を切ったけれど、近距離ではそうすぐに熱くはならないのが悔やまれる。男性は手袋もしておらず、こんなではあかぎれてしまうと心配になった。


「これも、――あとこれもどうぞ」


心配はするけれどその手を包んで暖めるなんて、こんな初対面の名前も知らない間柄で出来ることはなく、雪穂はコーヒーやコーンポタージュ、おしること甘酒の缶から適当に取り出した二つを男性の頬にあてた。そうしてカイロを持たせた手とは違うほうに持たせる。


「あ……ありがとう、ございます……」


雪穂の片手にはあまる缶二つを難なくその左手に収めてしまった男性は、ようやく口を開き、雪穂を安堵させた。


「こんなふうに風邪をひいてしまっては、怒らせるか心配させるだけになってしまいますよ」


墓のほうへ視線を走らせた雪穂につられ男性もそちらに目をやる。何故だか、本当に怒られている気持ちになり、中で眠る人ならそうなるだろうと、男性は反省をようやくした。


「すみません。そ、う……ですよね。……もういいかと思って」


「よくはありませんよ」


底冷えは、留まるそこに増していく。けれど雪穂と男性は、寒さが極まる場所から動こうとはしなかった。