次の年には忘れてしまう

 
 



何か、声がした気がした。


冬夜には、それが天使のそれに聞こえて。


だから……ああ、迎えに来てくれたのかと思い、思考を全て閉ざし“そのとき”を待つことにした。


まるで昔観たテレビの中の映像と一緒だな。最期の思考がそれになってしまったことは少し悔やまれるけれど。どうせなら、墓の中で眠る人物のものであればよかったのに。


閉ざすということは、生を拒絶することだと冬夜は思っている。だから、自分に積もっていく雪の冷たさがなくなり、逆に温もりまでも感じたのは、あちら側に近づきつつあるのだということ。


最期とは、こうも穏やかになれて、あたたかいものなのだな……。


けれどくしゃみひとつで冬夜はこちら側に引き戻される。寒さによるものではなく、ふわりと何かが鼻を擽ってきたからで。


「……、」


そうして、心当たりのないマフラーが肩に掛けられているのと、見知らぬ傘が冷たい雪から守っていてくれたからこその温もりだと、冬夜は知る。これらが冬夜をこちら側へと呼んだのだ。


真っ白なマフラーは柔らかで、洗い立てのような匂いがした。傘は何色なのだろう。薄いピンクに見えるそれは、こんな夜の僅かな明かりでは正確ではないかもしれない。


おそらく女性のものだろう傘とマフラーに包まれながら辺りを見渡してみれば、人気などない。


どうしようか。こんな天気では、ここに置いて帰ってしまってはせっかくの綺麗なものが汚れてしまう……ようやく立ち上がった冬夜の視界、墓地の入口付近には、こちらに向かって静かに歩いてくる人の影があるように見えた。