次の年には忘れてしまう

 
 
あの日と違い、崩れ落ちることなく佇む冬夜。その正面に立ち、背中に手を回すものだから、まるで抱き締めているようだと、雪穂は俯き顔を隠した。


「色々と、今日は話すんですね」


雪降る夜の冷たさが、今だけは心地よく。けれど、傘もささずにいたものだから、その髪や肩に積もった雪を冬夜が躊躇いがちに払ってくれる。触れられた瞬間、雪穂は北極あたりに瞬間移動したくなった。


いつかと同じ、頭の上から声がする。頭の上から、いつかとは違う柔らかな声が雪穂に降る。


「焦ったんです。九重から小説の内容を聞いて、そこに僕が居ては……他の方はただの物語だと思うでしょうが、流石に、雪穂さんにはわかるだろうと。逃げられてしまいましたしね」


「っ、あれは…………そう、ですね。すみません。――でも、あれ? 他の方も、多分、主人公の男性にはモデルがいて、その正体もわかっていると思います。っ、ひゃっ!?」


「すっ、すみませんっ」


もう雪は払い落としたのにずっと雪穂の髪に触れていた冬夜が、突然その指を痙攣させるようにしたものだから、雪穂は驚いて声を上げてしまった。耳を掠めていったから抑えられなくて。


どうやら冬夜は、小説の内容を伝えるだけで、モデルの存在やその正体まで、九重が話しているのは知らなかったようだった。雪穂が話すと、そういえば打ち合わせの際には、何故か買い物を頼まれていたことに思い当たったようで。しばらく冬夜は、九重への文句を少々口汚く呟いていた。


説明をするにあたって、ようやく顔を上げた雪穂がそんな冬夜を見る表情には、戸惑いも表れていて。


冬夜の心がざわざわと落ち着かなくなる。


「……嫌な部分を見せてしまいましたね。僕は、優しくもない、ただの凝り固まった馬鹿な男です」