次の年には忘れてしまう

 
 
――


「……なんで、今度は泣きそうなんですか」


泣きたいのはこっちだと、雪穂は自宅の玄関先で追い詰められる。場違いに笑ったと思ったら、今度は泣きそうだなんて……その表情は初めて見つけたときのそれにとてもよく似ていて。


そんなの、振り切れるわけがない……。


大丈夫です、大丈夫だからと冬夜は呪文のように囁く。自分を落ち着かせるかのようにひとりごちる大きさの声は、誰かに向けたものではないかもしれないけれど、雪穂は必死に拾おうとした。




「大丈夫です。きっと、怯えているようなことには、ならない」


今度ははっきりと、冬夜は雪穂に向かって告げてくる。まるで予言者だ。言い含めてくるその未来視擬きに、雪穂だってすんなり乗れればどれだけいいか。


「……馬鹿ですか」


考えずにいたら、良かったことなの?


考えるようになったから、貴方を想うことが出来たのに……。


「そんなこと、貴女はしないと、僕は思う」


「……」


「そんなことになったら、とことん、たくさん、話をしましょう。きっと、お互いに譲れない部分なんて、どんな相手ともあるのだから」


「……」


「精度なんてなくていい。綺麗でも汚くても、僕は雪穂さんの全てを知りたいと思います。――そうやって積み重ねていく時間が、欲しいです」


「っ……」


「明るくて震えないところでも、もっと色々な貴女を見たいし接したい。怒ってもほしいし笑ってもほしい。もっと他にも。僕からも、もっとぶつけたいことがあります。してあげたいこともありすぎて困っています。お……おこがましいのは重々承知だけど……――優しく、させて下さい」


優しくしたいのだと、小説の中の男性と同じ望みを、冬夜は遠慮がちに願った。