違うと、彼女は私とは別人だと言っても、冬夜には頷いてはもらえない。
泣かない代わりに、ぽつり、ぽつりと雪穂は心の膿を本人に紡ぐ。いっそ嫌われてしまえばいいとした。
「私は、奥様への想いを捨てたくない姿を守りたいと、大切にしたいと思ったはずなのに、……私はいつか、行かないでと懇願するかもしれない。頷かれても、振り切られても、悲しむでしょう。全てを、受け止められずに、気持ちだけ大きくなっていくのは嫌なんです」
いつかの自分の姿と冬夜を重ねるところも浅ましくていやらしくて。純粋でないから、飛び込んではいけないと思う。
どうせならもっと汚れてしまえば良かった。そうしたら、きっと尻尾を巻いて今をも逃げ出してしまえたのに。
「貴方は私が出来なかったこともした。私はそれに憧れて、そんな人に嫌われたくないから一年に一度、精度を凝縮した私を見せてました。優しかったのなんて当然です。たった数時間だけのことなんだから、可能なことなんです」
なくすのは、もう嫌なんだ。去られてしまうのは、もう耐えられない。雪穂の恐怖はやはりそこで。
「なら、きちんと、貴方が死ぬまで大切にしていける他の人と寄り添う姿を見てしまうほうが、きっとよっぽど、いいに決まってる」
それならば、泣くのは雪穂ひとりだ。冬夜のことを守ったまま、嫌われはせずに、運がよければ記憶に残してもらえる。
この恋の望ましいかたち。
けれど、
「……なんで、笑っているんですか?」
見上げたのは、雪穂の膿を聞きながら顔を赤らめ、口元の緩みを抑えきれない冬夜の姿があった。
「すみません。ほっとしたのと――」
悪いとも思っていない謝罪のあと、冬夜は緩む口元を手で覆いながら、嬉しくてと呟いた。



