次の年には忘れてしまう

 
 
「彼女は――考える、という行為をさせてくれた、さよならじゃない“寂しい”や、『またね』という言葉がその場しのぎだけじゃないのだと体感させてくれた、祖母からの助言を生かすことをさせてくれた、守りたいと思えたそんな人を、自分に関わることで不幸にさせたくないんです」


「恩義なんかでは……」


「そうやって調子に乗らせないで下さい。彼女は、自分が男性にとって特別意味のある存在だと思いたくないんです」


「何故ですか?」


「そうしたら、彼女は全ての愛情を求めるでしょう。過去なんか、捨ててほしくなるかもしれない……馬鹿みたい。自分が好きになった事柄でさえも、消えてほしくなるなんて馬鹿みたい。あまりにも傲慢だわ」


それは、九重の元で話した馬鹿みたいなエゴ。雪穂はもう、小説がどうだとか彼女が男性がどうたとか、そんな防御壁が崩壊していることに気付きもせず、ただただ冬夜を遠ざけることだけしか頭に残っていなかった。


もうそれなりに歳を重ねたいい大人たちは、いつしか小説を飛び越えていて。現実を語る。


「『飛び出してしまえば、今より多くを求める。かつての場所で守ってきたもの、守りたかったものを否定するように、きっとなる』――これは、彼女の考えであるだけですか?」


「っ!?」


「あんな鈍感雇用主、訊き出すなんて朝飯前なんですよ。――――ああ。やっと、こっちを向いてくれた」


「……お願いです。私を自惚れさせないで……なんでここまで来たの? そんなことされたら、彼女は私だなんて、思ってしまう……」


違うと言って下さい……。


思わず立ち上がり振り返ってしまった先の冬夜は、雪穂が覚えているつい最近より、ほんの少し痩せてしまったようだった。


「そう思ってほしくて、僕は貴女に会いに来ました。雪穂さん」