次の年には忘れてしまう

 
 
少し、話をしましょうか――冬夜は投げ掛けた問いはそのままに、丸まったままの雪穂にこちらを向いてと強いることもなく、新たに提案をする。


「あの男性は――」


「……」


「怯えないで下さい。小説の話です」


それはあくまでそうなのだと、冬夜は雪穂が頷くまで先を続けなかった。僅かに、丸まったままの小さな背中やマフラーの中に入り込んだ髪が揺れて、冬夜は詰めていた息を細く静かに吐いた。そうしてまた息を継ぐ。


「――あの物語の中の男性は、彼女に返したかった。初めて会ったときに、とある事柄でとても救われた。次に会ったときも、その次も。男性は彼女から優しさを貰ってばかりだ。底から引き上げてもらってばかり……なんて不甲斐ない」


不甲斐ないのは自分のほうだ。こんなに感情を溢れさせてしまうのは良くない。


「……、フィクションの中の彼女は」


「っ」


けれど、いつもは一年かけて抑えていた冬夜へ抱えるものを、たった一割程度の期間で及第点へなど無理な話で。


「彼女は…………彼女こそ、貰ってばかりだと、思っています」


「そんなことはっ」


「あるんです」


今年はもう、それでなくとも色々 ありすぎた。


それは所詮物語の中のことと、感極まって流れそうになる涙の代わりに、雪穂は彼女の胸中を代弁する。


「貰いすぎてばかりの彼女に、男性はそんな恩義を感じなくてもいいと思います」


恩義、という言葉を雪穂が使うと同時に息を呑む気配がした。傷つけたかもしれないと背中に汗が滲んだけれど、まだ今なら、冬夜を守れると雪穂は気付かないふりをした。


「そんなことは……」


「だから、恩義だけで、ここまでしてもらうのは気が引けます……と、彼女は思っています」