だって猫なら自分勝手にすりよって暖めてあげられる。
どんなに近付いても、愛玩対象なら、きっと冬夜を傷付けないままでいられる。
「勝手に押し掛けてすみません。だが、倒れていたり危険な目に遭っていたりしたらと思って」
「いえ。そんなことは」
背後から安堵の息づかい。振り向いたらきっと、白くて大きな塊が冬夜の口から舞い上がっているのだろう。
「――まさか、職場で貴女に会うとは思いませんでした」
「そう、ですね」
隙間を埋めるように、冬夜は九重宅でのことを口にした。雪穂は、思いの外上手く返事を出来たことに身体の力が抜け、瞬間、それを狙っていた花火が腕の中から抜け出していってしまった。暖めてある茶の間に行ってしまったのだろう。
逃げ出したい。ここから。往来を歩く他人の気配もないふたりきりの空間に、雪穂は耐えられなかった。
けれど何処に逃げるというのか。こうして自宅も知られている。職場も。それら全てを放り出せたなら、身軽な雪穂ひとり、可能なことだ。……けれどもう、雪穂はそれを出来ないくらいには冬夜を好きなのだと自覚した。繋がりを、自分から断つにはまだ覚悟がない。
なのに会いたくはないなんて笑ってしまう話だ。
冬夜からのものなら受け入れられる。冬夜から貰えるのだから。
「貴女は、僕と会うのは、一年に一度だけだと言いました」
「……はい」
あの日、冬夜に掴まれた腕の感触が甦る。一生消えないでと願ったものだ。
「なのに貴女は今日、来なかった……。自宅の玄関で丸まって、猫に相談を持ち掛けている」
拗ねてもいるような背中越しの冬夜の声色は、優しくて優しくて、雪穂に答えられるはずもない。
「――少し、話をしましょうか」



