「私ね、花火……」
花火は、暖かな屋内に入り損ねた腹いせだと、雪穂の親指の根元をかじりながら見上げてくる。お構いなしに続く雪穂の言葉に、耳が動いていた。
「……私、もう会わないことにしようと思うんだ」
にゃあ、と花火が一声鳴く。
「いいよね、それで。だって……」
………………、
「何故、そう思ったのですか?」
「……」
にゃあ、と鳴くはずの花火が、人間になって雪穂に問うてきたのだと思いたかった。花火は男の子だし、その声の性別は一致する。
その声が、九重が比喩したシンデレラのように、魔法使いの仕業だったならどんなに良かっただろう。猫が王子様になんて、きっと素敵なことだ。お伽噺のようなそれなら、王子様が迎えに来てくれたあとは、それからきっと末永くな未来しか訪れないのだろう。
雪穂は、強く抱き締めすぎたせいでにゃあと鳴いてくる花火の毛並みに顔を埋めた。
「……どうして、ここがわかったんですか?」
「僕が、毎年、今日だけに、あそこに来ていたとでも?」
「……」
一言一言しっかり理解させるように問われる。さっきから質問ばかりだ。会えたときだけ……そんなこと、雪穂は思ってはいないけれど、今気付いた。
馬鹿だなあと唇を噛む。雪穂の背後に立つこの人なら、そんなことしないのは当然だ。愛する妻が眠る場所、そこに、毎日通ったとしても苦ではないだろう。
冬夜はそんな人だ。
数にしてやっと両手を使うようになった、月日にしたらずいぶんと過ぎて、雪穂は自信をもって断言する。
「何度か、この辺りで見かけました。この家への出入りも、ご近所の方と話す姿も」
雪穂はしゃがみ込んだまま動けない。振り向きもしないのは恥ずかしいからと嬉しいのとで、とるべき対応の正解が導かれてこないから。
冬夜がくしゃみをひとつする。
雪穂は、猫になりたいと願った。



