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十二月三十一日。
二十三時を、過ぎてしまった。
雪穂は、真っ黒な夜空から降る粉雪を見上げている。自宅玄関から一歩進んだその場所で。
白のコートに白いマフラー、外出に必要なものはコートのポケットに入れてある。いつものバースデーケーキと花束も持っているし、出発には事欠かない。
けれども、足は動かない。薄く積もった雪の上、まるで自分は霜柱にでもなったかのよう。膝は曲がったので、とりあえずそこでしゃがみ込むことにした。
ケーキの箱をコンクリートの地面に下ろすと、何処からか鈴の音が控え目に響き、飼い猫がのそりと歩いてやって来る。雪穂を尻尾でひと撫ですると、猫の嗅覚が遠くから嗅ぎとったのか、ケーキの箱の隙間に鼻を突っ込もうとする。
「こーら、花火。それは猫用じゃないんだよ。ごめんね」
花火は飼い猫の名前で、祖母と出掛けた花火大会の帰り道に出会い、家族になって今に至る。
気まぐれで嗅いでみたのか、すぐにケーキから興味をなくした花火を、雪穂は猫専用の玄関に入っていってしまう前に抱き上げた。にゃあ、と抗議の声をあげられたけれど、少しだけその体温が欲しかったのだ。
「ねえ、花火。あなたが代わりにあそこに行ってきて? そしてあの人が風邪をひかないようにあっためてきてよ。お願い」
雪穂は、今年もいるかもしれない冬夜に、どうやって会えばいいかわからなかった。
ただ、何事もなかったかのように顔を合わせる。九重の家での偶然を笑ったあとにいつも通り過ごす。
それだけでいいのだ。
「……」
けれどもし、小説のことを言われたらどうしよう。冬夜は何をどこまで知っているのか。少しでも話題にされたら、雪穂は平静でいられる自信はなかった。
一年かけてしていたことを、こんな短期間での構築など難しい。



