次の年には忘れてしまう

 
 



九重は、最終的に雪穂を自分の秘書に会わせる予定だった。それは候補者たちに等しく行ってきたことだけれど。


出版社の編集だった彼を口説いて雇い、以来ずっと、九重を支えてくれている。雪穂に言った通り本当に口うるさくて、ぎちぎちに管理してくるのだけれど、旅行好きな妻がいなくてお腹を鳴らす九重の面倒をみてくれたり、妻から習った珈琲を淹れてくれたり。九重が仕事をしやすい環境を作るためなら、数えきれないほどの、それがたとえ秘書の範疇外の雑務でも、口うるさくではあるが動いてくれる。


秘書は九重夫婦にとって家族同然な存在だった。厳しいけれど甘やかしてくれる、大切な大切な。


その大切な秘書が、愛する女性と結婚したときには、妻と二人で歓喜の涙を流し、最愛の妻となった女性を亡くしたときは、絶望しかなかった。


どうやっても、自分たちでは、秘書を闇の淵から引き上げることは出来なかった。秘書が妻の骨を胸に抱く時間は変わらず長く、その表情は笑みをたたえていたものだから……


……恨まれてもいい。自分たちの元を去っていってしまうかもしれない。けれども、九重は周囲の意見に賛同し、骨の妻との物理的別離を頷かせた。


そうして今、大切な秘書は、以前の厳しさに輪を掛けて九重を叱り、変わらず側にいてくれる。


あまつさえ秘書は、九重のおかげだと、口にするのをそれは悔しげに、視線を外しながら言ってくれたのだ。


その大切な秘書が酔った勢いで漏らした優しくしたい彼女のことを知り、九重は、心から安堵した。