それは傲慢だ。
雪穂は、自分の為に不偏を望んだ。互いの、祖母と妻が眠る墓地でしか会わないのは自分の為。穏やかでいる努力を一年かけてしなければいけないほど募った冬夜への気持ちは、あの場所でなければ保てないだろう。
“もっと”を望んで、ただの我が儘な女に成り下がる。冬夜の大切だった人を否定して、きっと嫌われてしまう。そんなのはごめんだ。
ならば、どこまでも不偏で、叶うのなら、九重の小説の中の彼女のように、天使でありたい。
ただの臆病なだけ……手に入れてなくすのは、少しばかり雪穂には荷が重かった。
「なるほどね。そういう考えもあるわけだ」
「私の考えなど、九重さんには既にあってなことだったと思います。お耳汚しをしていまい申し訳ありませんでした」
「想像と、実際の考えにはやはり違うものがあってね。こちらこそありがとう。――それに、随分辛い考察をさせてしまったようだ」
九重が指した先の雪穂の膝には、白いスカートに消えない皺を残す勢いで握る雪穂の手があった。その指は血色を欠き、もうこのまま朽ちていってしまうように動いていなかった。
いいえ、そんなことは。雪穂は九重に笑みを向けてみせた。この傲慢には天井がないのだなと呆れながら。
「ただの、妄想の果てのことですから」
そう。これは妄想だ。この場ならそうしてしまえるからこそ、雪穂は口に出来たのだろう。
九重の小説に添ってのただの個人の見解であり、雪穂のことではない。物語を隠れ蓑にして表に出した現実の恋は、雪穂の心を少しだけ穏やかにしてくれた。
冬夜に届くはずのない状況で、という安心感が今を作った。
口にするという行為はこんなに楽になれるのだと、雪穂は改めて知ったような気がする。



