「――決して、彼女は男性を嫌ってはいない」
とわたしは想像する。九重の考察は続く。
怯みながら九重に求められているうちに、雪穂はもう脳内が沸騰してきてしまい、ぐつぐつと音が体内に鳴り響く。するともう、不偏を望んでいかなければという警鐘など、届かなくなっていた。
「決して彼女は男性を嫌っていない」
「――はい」
「けれども彼女は頑なに拒むんだ」
「そう、ですね」
「椎名さんは、何故だと思う? 何故彼女は、男性の元に歩み寄らないのだろうか」
魔術師が囁くような九重の声色。語り部としても才のあった小説家に、雪穂は操られるように口をひらいていた。
……馬鹿みたい。彼女は私じゃなく、同じ気持ちなどではないのに。私はそんなに、あの人のことを綺麗に想っている天使ではない。
九重の物語は美しかった。人物たちがどちらも透き通っていて思いやりに溢れる。お互いがお互いを大切に、大切に、どうしたら出来るのだろうとしてばかりで。
大切にしたいのは、雪穂だって同じだ。
異なるのは、自分を守る行動の多さかもしれない。
ああ。自分はなんて我が儘なのだろう……そろそろ終わらせるときなのかもしれないと、雪穂は心が裂かれる痛みに苛まれた。
「きっと、不偏を誓わなければそこに居られなかったのかもしれない」
「――なるほど」
「彼女は、きっと男性を想っているのでしょう。その場所での男性の全てを大切にしたくて、不偏を」
「それは、そこでしか成立しない?」
「はい――飛び出してしまえば、今より多くを求める。かつての場所で守ってきたもの、守りたかったものを否定するように、きっとなる。……馬鹿みたい。自分が好きになった事柄でさえも、消えてほしくなるなんて馬鹿みたい。あまりにも傲慢だわ」



