「だが、周囲に――わたしに言わせれば、それは理由なんてもんじゃなく、ただの言い訳でしかなくてね。困ったものだ」
男性が気持ちを隠したまま、一年に一度の逢瀬は続く。
ある年に、ふと男性は気付く。もしかして、女性のほうも自分と同じ気持ちかもしれないと。曖昧なようでいて確固たるものでもあるような淡い。
けれどそれは、男性の歪みがそう感じさせたものだとかぶりを振る。
けれども、と、男性は思う。彼女は男性よりも随分表情が素直な人で、いつからかは断定出来ないけれど、別れ際、とても寂しげにしてくれるようになった。確実に。
とある年のこと、男性は自分でも驚いてしまう行動をとる。彼女に、一年に一度十二時までの逢瀬、それ以外の交流を望んだ。
けれど……彼女は男性に応じてくれることはなかった。なにも不埒なことを思ってのことではなかったし、それは彼女の素直な表情からも理解してもらえているようだった。
彼女は、いつも以上に寂しげに。その行動は脱することなく帰っていってしまった。
「彼女は――どうして帰ってしまうんだと思う?」
椎名さんの考察を知りたい。九重は、その眼鏡の奥の目を移ろわせながら雪穂に問うてきた。自身も物語に身心を馳せながら、多種多様な分岐点を探っているようだった。
雪穂は言葉に詰まった。身体が熱をもったのだ。頭にあるのは、冬夜のこと。一年に一度しか会えない愛しい人。
困った……こんな、今こんなに心がざわめいてしまうなんてイレギュラーだ。一年に一度が限度なのに。
雪穂はもう、そうやって均衡を保つようにしなければいけないものを内に抱えていた。



