次の年には忘れてしまう

 
 
絵本のようなおとぎ話のような。それは、雪穂の得意とする画法だった。大御所の作家の、そんな力の入った注目されるであろう作品を前に、足踏みと同時に武者震いさえ感じる。


話が進むにつれ前のめりになる雪穂に、対面で座る九重は上機嫌だった。必然的に、雪穂の隣の上司もそうなっているけれど雪穂の視界には微塵も入っていなかった。


「物語は、書いてはいないが脳内にもう九割ある」


「はい」


「しかし、悲恋にしようか結ばれるのか、それはまだだ」


「楽しみにしています」


「そこで躓いているんだ。――だから、椎名さんの意見も訊いてみたいんだが、いいかな? アイデアの参考にさせてもらえればと思っている」


くすりと、雪穂は九重に求めらることに歓喜した。


「いちファンとしては、本を手にする前に色々と知れてしまうのが、嬉しくも悲しくもなりますが」


それを了承ととった九重は、まだ選ばれてもいない雪穂にこんなに深部まで話してしまっていいのだろうかと心配になる程に、そのおとぎ話のような作品のことを雪穂に話した。雪穂も精一杯に応えていく。


九重の話すおとぎ話は、所々自分の状況にも重なり、雪穂は体温が上がっていくのを自覚した。けれど男性視点のその話は、女性のことを天使か女神か精霊のように高潔な存在としていて、そこがあまりにも異なる点だと冷静にもさせる。


一年に一度しか会えない彼女のことを、男性は、いつしか好きなのだと気付く。それも周囲に言われてやっとだ。出会いから数年、片手でおさまるだけの邂逅を果たした頃のこと。


けれど男性は頑なに、彼女に気持ちを見せることを躊躇う。自分にはもう、そういったものを求めてはいけない理由があって。