世間話、のようなものを幾つか交わした。必要以上にお互いの情報を話すでもなく、他愛のない。
今年も、冬夜は雪穂の祖母の墓に手を合わせてくれた。綺麗な所作も相変わらずで、けれどいったい、冬夜は祖母に何を言っているのだろうと雪穂は祖母に訊ねたくなった。
そうして、雪穂と冬夜は今年のうちに、それぞれの家路につく。
今年は冬夜は、雪穂を引き止めることはしなかった。特に理由もないのだから当然なのだけれど、ほのかな想いが雪穂をそこに拘らせた。
けどそれでいい。何を望むことがあるだろう。もうこれで会うこともない。
今年も雪穂は、冬夜の妻の墓に手を合わさなかった。今年は出来なかった、というほうが正しいのかもしれない。後ろ暗いくらいには、雪穂の想いはほのかにあった。
これ以上深みに行ってしまうものではないけれど。
だって、これが最後。
今年のうちに考えることをやりきっておこう。そうすればもう引きずることもない。雪穂は冬夜への想いを継続するつもりはなかった。
大切に、したいのだ。泣き崩れ墓に縋っていたあのときの冬夜の全てを。泣いて泣いて泣いて、いつか自然に、それを内包しながら昇華すればいい。していけるのだから。
他の誰もがそれを良しとしなくても、雪穂だけはと。冬夜の人生に関係のない自分だからこそ出来るそれ。
だからこそ自分は、雪穂は、このラインから動かない。大切にしたいと瞬間に思ってしまったのだから仕方ない。
袖振り合うくらいの出会いでも、もうその存在は記憶されてしまったのだから、喪失でもしないかぎり雪穂は冬夜を忘れない。
想いなら、まだほのかなそれは流してしまえる。
だから今年中だけ考える。数分後の次の年にはもうないことを。
ああ。もう認めるから認めるから……



