次の年には忘れてしまう

 
 
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こんばんは、と背後から声がした。


十二月三十一日、二十二時三十分のこと。


いつも通り、雪穂は祖母の墓前でバースデーケーキを広げ、蝋燭に火を灯し、生クリームをひとすくい口にし誕生日を祝う。その次は、祖母の好きな百合の花を墓に。


その声には覚えがあった。一年振りだけれど、雪穂から消えてくれなかったそれだ。テノールの、心地いい声。


振り向く前にしゃがんだまま、雪穂は心によぎった何かを、今までの人生経験に検索をかける。当てはまったものは……何故だろうと思うもの。


ケーキはそのままに。今年も夕方に降った雪が薄く積もる夜の墓地には、あまりそぐわないけれど、雪穂の誕生日を祝う蝋燭の火が消えることなく揺らめいていた。


「傘を、返しに」


「それは、ご丁寧に。かえって申し訳ありませんでした」


一年前に、僅かな時間での関わりしか持たなかった男性だけれど、雪穂はなんとなく、そういう人だと思ってしまっていた。けれど。


まさか今日、直接返されるとは。傘を押し付けた罪悪感からか、期待をしないという防御壁か……防御……何の、防御だろうと雪穂は心で首を傾げた。


「――ちゃんと、それなりにお元気でしたか?」


唐突に口をついて出たのは、一年間、思い出すと同時に気にしていたことで。


「ええ――それなりに」


雪穂の問いに男性は曖昧に笑う。


傘もささずに崩れ落ちたままの一年ではなかったようで、雪穂からは安堵の息が漏れた。


「それなら、良かった」